概要
農地法の大原則として、農業生産法人以外の法人は、農地の権利取得を行うことはできません。
ところが、平成21年12月に農地法が改正されたのですが、そのときに
農業生産法人以外の法人であっても、農地の使用貸借(無償)による
権利または賃借権の設定が、一定の要件の下であれば、許可を得ることが可能となりました。
ただし、農地の所有権に関しては、これまでどおり農業生産法人以外の法人への権利移転は認められていません。
使用貸借と賃貸借
民法593条・使用貸借
使用貸借は、当事者の一方が無償で使用および収益をした後に返還することを約して
相手方からある物を受け取ることによって、その効力が生じる。
民法601条・賃貸借
当事者の一方がある物の使用および収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して
賃料を支払うことを約することによって、その効力が生じる。
手続きについて
ここで説明している改正農地法を活用した農地賃借等による農業参入の手続きについては、
農業生産法人を新たに設立する方法と、大きく変わる部分はありません。
異なってくるのは、農業生産法人の要件の代わりに、農地法第3条第3項各号に掲げる要件を
満たすことにことになるというところです。
要件について
1.使用貸借による権利または賃借権の設定であること
農業生産法人以外の法人が、農地に関する権利を取得することが可能となるのは
『使用貸借』と『賃貸借』による権利に限られます。
農地を購入するなどの、農地所有権を取得することはできません。
2.解除条件付の契約であること(農地法第3条第3項第1項)
使用貸借および賃貸借による権利を取得しようとする場合の契約は、
『取得後に農地を適正に利用していないと認められるとき場合には
契約を解除する旨の条件が書面による契約においてふされていること』
が必要とされています。
解除条件というのは耳慣れない言葉だと思いますが、
『ある条件が発生することにより、すでに生じている効力を消滅させる』条件です。
まだややこしいですよね。
簡単な例を出すと、『留年したら仕送りをやめる』というものです。
すでに仕送りをしてもらうという効力は生じています。
それが留年するという条件が発生することにより、仕送りという効力が消滅する、というイメージです。
農地法のケースに当てはめると、
すでに生じている権利取得という効力が、
農地を適正に利用していないという条件が発生することにより、
権利取得の効力が消滅する、つまり許可が取り消されるということになります。
3.地域において適切な役割分担を担うこと(農地法第3条第3項第2号)
適切な役割分担の具体的な基準が、平成12年6月1日の通知に例示されています。
それによると『適切な役割分担の下に』とは、地域の農業の維持発展に関する話し合いへん参加や、
農道、水路、ため池等の共同利用施設の取り決めの遵守、獣害被害対策への協力等であり、
確約書を提出したり、農業委員会や都道府県知事と協定を結ぶことを求められています。
4.継続安定的に農業経営を行うと見込まれること(農地法第3条第3項第2号)
これもまた、平成12年6月1日の通知に例示されています。
それによると『継続的かつ安定的に農業経営を行う』とは、
機械や労働力の確保状況等からみて、農業経営を長期的に継続して行う見込みがあることとされています。
新規参入の場合には、主に営農計画書により示すことになります。
5.業務を執行する役員が常時従事すること(農地法第3条第3項第3号)
これもまた、平成12年6月1日の通知に例示されています。
それによると『業務を執行する役員のうち1人以上の者がその法人の行う耕作または養畜の事業に常時従事すると認められる』とは、
業務を執行する役員のうち1人以上の者が、その法人の行う耕作または養畜の事業の担当者として、
農業経営に責任をもって対応できるものであることが、担保されていることとされています。
本要件にある『耕作または養畜の事業』とは農作業に限定されるものではなく、
営農計画の作成、マーケティング等の企画管理労働も含まれます。
また『業務を執行する役員』とは、
会社法上の取締役のほか、理事、執行約、支店長等の役職名であって、
実質的に業務執行についての権限を有し、地域との調整役として
責任を持って対応できる者とされ、権限を有するかの確認は
定款、法人の登記事項証明、当該法人の代表者が発行する証明書等で
行うとされています。
『農業経営に責任をもって対応できるものであることが担保されていること』、
『地域との調整役として責任を持って対応できる者』という部分から、
常時従事執行役員は、地域に常駐することが望ましいと思われます。
手続きする際に気をつけること
農業生産法人以外の法人でも農地賃借が可能だから手続きが楽そうというイメージを持たれるかもしれません。
確かに農地法第3条第3項の規定によって、農業生産法人ではなくても農業を行うことは可能ですが、
新規就農で農業を行おうとすると、農地法第3条の許可申請をし、許可を受けなくてはいけません。
また、農業委員会は許可申請があると市町村長に通知し、通知を受けた市町村長は
意見を述べることができるとされています。
さらに、『農業委員会・都道府県・地方農政局の間で情報が共有されるよう配慮すべき』とする通知など、
慎重に手続きをするよう要請されています。
ですので、農地法が改正され農業参入の道が広がったとも言えますが、
手続き上は従来のものと特別変わりはありません。
むしろ上記のような要請や、『地域において適切な役割分担を担うこと』という要件も加わり、
決して手続きが簡便化されているということではありません。
農地の利用状況の報告
改正農地法第3条第3項の規定により農地の使用貸借、賃借等の許可を得た場合は、
毎年農地の利用状況について、農業委員会へ報告しなければなりません。
この規定は参入要件を緩和する代わりに、事後規制を厳しくしようとする観点から、
新たに設けられたものです。